日本の各業界で似たような話を聞く

 スマートフォンの普及が日本では著しく遅れていると、前回述べた。2011年8月末時点での携帯電話契約件数は1億2654万であるが、スマートフォンのシェアは1割にも満たない。

携帯端末の世界販売台数とシェア

 日本でスマートフォンの普及が遅れている原因はいくつかある。第一は、日本企業が閉鎖的でインターネットのクラウド的利用をしていないため、スマートフォンをビジネスに活用しにくいことだ。前回述べたように、会社情報をGメールにのせることは多くの企業が禁じている。スマートフォンの大きな利点はGメールをどこでも見られることだが、それが禁じられていれば、スマートフォンの利用価値は大幅に減少する。

 また、電波環境も悪い。無料のWi-Fiを使える場所はほとんどない。アメリカでは無料のWi-Fiが利用できるスポットがたくさんある。空港、公園、ホテルのロビー、スターバックスの店舗等々。

 クラウド時代以前から、日本におけるインターネット利用環境は貧弱だった。ホテルの部屋に回線が来ていても、いまだに高い利用料金を取られる。アメリカのホテルやモーテルでは、高速回線を無料で使えるのが普通だ。クラウドの環境は社会インフラだ。それがないところでは、クラウド機器の利用は進まない。

 スマートフォンが普及しないもう一つの理由は、「今の携帯電話のほうが便利」と考えている人が多いことだ。実際、日本の携帯電話は、さまざまな機能を持った世界でもまれな「高級機」なのである。しかし、これは日本の先進性を示すものではない。それどころか、日本の病理現象の結果なのだ。

■SIMロックと「ガラケー」

 日本の携帯電話が「高機能」であるとは、さまざまなことができるという意味である。「おサイフケータイ」で財布代わりになったり、「ワンセグ」でテレビが見られる。私はこうした機能を一度も使ったことがない。必要ないからだ。私にとって重要なのは、PCとの間でデータの交換ができることである。それができれば仕事の効率は大きく上昇するし、できなければ役に立たない。

 なぜこのような高機能を提供できるかといえば、顧客の囲い込みがなされているからだ。日本では、後で述べる事情により、機器と回線利用がセットで販売されている。ある機器を買った人は、特定の事業者が提供する回線しか利用できず、料金やサービス内容を見て他の回線に乗り換えることができない。

 回線提供者の立場から見ると、利用者が離れないので、安心してさまざまなサービスを付与できる。その結果、日本の携帯電話は異常に高機能化し、異常に高価な機器となり、日本以外の国では売れない製品となった。日本の携帯電話が「ガラケー(ガラパゴス携帯)」と呼ばれるのはこのためだ。日本は世界標準からずれているのである。

 携帯における囲い込みは、「SIMロック」という方式で行われている。現在使われている第3世代携帯電話(3G)では、電話番号やネットワークの情報が入っているSIMカードを端末に挿して使う。

 現在の日本では、特定の端末は、特定の事業者のSIMカードしか使えないようになっている。この状態をSIMロックと呼ぶ。ロックされていない機器(ロックフリーの機器)も販売されているが価格が高い。

このため、端末を売れば必ず通信料金を確保できる。SIMロックが解除されればユーザーは端末と通信サービスを自由に組み合わせられるようになり、事業者を乗り換えたり、好みの端末を買いやすくなるが、それができないのだ。

 SIM方式は、もともとはヨーロッパで一つの端末を多くの国で使うためにできたものだ。国境を越えても、SIMカードを替えるだけで同じ端末を使い続けられる。多くの端末はSIMロックなしで売られているので、購入者はSIMカードを購入し、買ってきた端末に入れることで電話として機能させる。

 このため、ノキアはヨーロッパ全域を市場として、価格を下げることができた。そして、販売台数で世界のトップにたった。

 日本国内で販売されている端末はSIMロックされているものだけなので、海外で携帯電話を利用する場合にはローミングという仕組みを使う。この料金は非常に高い。もともとは国境を越えて使うために導入された仕組みが、日本では逆になっている。

 「アジアとの経済統合を進めるべきだ」としばしば言われるが、現実はこのような状態なのだ。フィリピンとFTA(自由貿易協定)を結んでも、看護師試験で事実上排除しているが、それと同じことだ。

 こうした状態はPCにもあった。かつて日本では、NECの9801が「国民機」と言われた。アメリカのPCは日本語で使うのに難点があったので、日本では国産機しか使えなかった。つまり典型的な「ガラパゴス現象」の条件があったのだ。しかし、この状態は、MS/DOSの登場で一挙に破壊された。今では、日本のPCメーカーは見る影もない。

■日本の競争は囲い込み競争

 携帯電話と同じことが、スマートフォンでも生じる可能性がある。なぜなら、SIMロックはスマートフォンにも持ち込まれているからだ。

 iPhoneの回線はソフトバンクモバイルが提供しているが、SIMロックがかかっていて、他社回線を利用することができない(海外で販売されているiPhoneはSIMロックフリーなので回線は自由に選べる)。ソフトバンクはiPhoneという超ヒット商品を日本で独占しようとしているのである。

 この状態を打ち破ろうと、今年4月、NTTドコモがiPhoneなどでも使えるSIMカードを発売した。しかし、ソフトバンクがiPhoneのロックを解除しないと、ドコモの回線でiPhoneやiPadを使えるようにはならない。

 日本にも競争はある。しかし、それは電波の質と価格の競争ではなく、利用者の囲い込み競争だ。これは一見したところ競争に見えるが、前回述べたクラウド大戦争とは本質的に異質のものである。なぜなら本来の競争は進歩をもたらすが、囲い込みは停滞とガラパゴス化しかもたらさないからだ。かくして日本ではスマートフォンにも、おサイフやワンセグ機能が盛り込まれるだろう。

 2001年、ソフトバンクはADSL回線を導入してドコモの独占状態に穴をあけた。このとき、多くのユーザーは拍手を送ったことだろう。しかし、かつての革命の旗手は、今やSIMロックで地位を守ろうとしている。

 ジョージ・オウエルは、『動物農場』で、動物たちが人間の支配に反抗して革命を起こしたが、結局、豚のナポレオンが独裁者になってしまう物語を書いた。これは私が高校生のときの英語の副読本だった。ハンガリー動乱の直後だったので、たいへん興味深く読んだ。そのときには、社会主義に未来がないとは想像できなかった。しかし、今は社会主義経済が消滅した理由がよくわかる。そして、競争が囲い込み競争だけになってしまう国に未来がないことも、よくわかる。

■野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。

コメント

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伝等

奇妙なぐるでしょう。何処でもあります。閉鎖社会、鎖国意識でしょう。これは国内政策においても現れます。選択ができるという仕組みを本能的に嫌います。
 お客に選択肢を与えて、選ばせる上において、その選択肢を行使する領域が既に制限されているものと、違うものがありますが、不思議なことにその選択を嫌うお客もいます。いわゆるお勧め品という奴です。
 国内は規制を撤廃して、自由にすることですがこれができません。
 保育園など保育園にだしている、補助金を保育園に行く生徒に直接出せば、その生徒の親が保育園を選びますから、そこの自由競争が起きて、すぐに解決ですが、それをしません。
 それをすると財務省の権限が減るからです、子供手当てもそれと同じですので、2兆円の支出が自由になりますから財務省は反対です。子供に出すなら幾らでもほかのやり方があります。子供手当ての問題は化成でいない人にも出るということです。乞食を作るわけには行かないからkenjiは反対です。

 とにかく、自由が無いです。
 これからは資格が必要という制度を廃止する方向へとすすまないと無理が生じると見ています。
 学校の教師に免許が必要でしょうか。教科書を検定でしっかりすれば、それを教えるに文字通り、できる人を各学校が選べば、教育費など激減するはずです。

 誰でもできるようにして、そこに保険機能を作用させればいいだけです。市場を嫌います。

まあ無理でしょうが。投資顧問業に資格が必要ですか?市場で十分でしょう。

まるで送電網と発電所の関係のようです。仕組みに競争(自由、市場)が入るように設計するという考えが精神にないから、無理でしょう。そのため皆でつぶれます。
 結局それは黒船が来るまで、となりますがこれからの黒船は来た時には既に手が無い黒船がきますから、我々の歴史的経験は無効の世界です。

 今回の金融崩壊がそれでしょう。何故あせるかというと気がついたときには手が無いからです。
 したがって現状が変わるという前提の予測が必要ですから、自動的に変革が内在された生き方をせざるを得ない。
 学校教育ではそれは教えていないし、社会自体もそれが無い。そのためきずいた親が子供に教えるか、若い時期にどんでん返しを経験して、その意味を悟るしかない。

No title

スマートフォンと携帯について色々な意見があるが、個人的には別物と思っている。

電話、メール、カメラ機能だけに限れば、進化した日本の携帯は断然スマートフォンより使い勝手が良い。
ネットやアプリを使いこなすにもサイズ的に限界があり、たとえばここのサイトもお気にに入れているが、スマートフォンでkenjiの長文を見るのは勘弁だ。(笑)

アプリ等特に外出先で必要のない人は携帯で十分だし、携帯+スマートフォンの使い分けがベターだと感じる。
以上若者からは笑われるオヤジの意見でした。

No title

kenjiさん

日本で営業するのなら、登録が必要ですよ。

瀬戸の花嫁さん

僕はミニマム携帯とipad2で移動しています。スマートフォンは小さすぎてどうも。

携帯

携帯は最近持った。連絡用に使うだけで、それ以上は使用していない。持ってしまったと思った。直接、いつでも連絡が来るからである。修理にいつでも呼び出される事になった。
 アップルのそれらは、小型のパソコンに電話機能がついただけではないか?
 それに、連中。日本人ほど起用ではないから、絵文字でナイト操作できないのではないか?
 携帯で見るには、長すぎますか。
考えますよ、これから。
 投資顧問業は登録が必要ですが、その登録に資格が必要ですか?医者のように。

No title

それは仰る通りです。
プロフィール

禅師

Author:禅師
投資顧問 

今年は先行投資、出費のみ

実績:

2016年 先行投資50万円
2015年 先行投資300万円
2014年 先行投資300万円
2013年 先行投資250万円

住所:東欧(?まで)
好物:海老チャーハン
コロンビア珈琲
趣味:旅行
音楽鑑賞
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