転載 為替

 『覚醒する大円高』(若林栄四著、日本実業出版社)から抜粋して紹介します。


 ・・・<『覚醒する大円高』、p199~p203から抜粋開始>・・・

 「若林、相場はどうだ?」
 この人はいままで一度も相場のことに口出しせず、私は好き勝手にポジションを振っていたのだが、突如、相場の話である。私は訝しく思ったが、勢い込んで言った。
 「いやぁ、この相場は150円までいきますね」
 「ふむ、そうか。で、いまポジションはどうなっている?」
 「限度いっぱいドル・ショートです」
 「あのなぁ若林、俺は180円まではよいと思ったけど、これ以上はどうかと思うんだ」
 「そうですか……」(全然納得していない。こんなおっさんに為替のことがわかってたまるか)
 「まあ考えでもみろよ。君のおかげで前期はロンドンを抜いて、海外店で収益がニューヨークに次いで2番になった。派遣行員が8人のシンガポールが、派遣行員が50人以上いるロンドンを抜くことは大変なことだ。それは素晴らしいことだが、その状態が長続きすると考えるのはちょっと無理があるんじゃないか? とくにその収益がディーリング益なんだから。自然の摂理が働いて、どこかでやはり本来の序列に戻ると考えるのが常識じゃないか? つまり、遅かれ早かれ、相場でつまずく可能性が増しているということじゃないかと思うんだ。これは相場が180円で止まるとか150円までいくとかいうのとは全然関係がない。時にはほどほどというのも大事だといっているんだ」
 目から鱗が落ちるとはこのことだ。正論である。マネージメントはこうでなければならない。為替相場論なら徹底的に論争しようと構えていた私は、この切り口には参った。全面降伏である。平素は口を出さないけれど、成瀬さんはこんなことを考えていたのだ。このバランス感覚が、この人を後に専務へと昇格させたのだろう。私はなんと上司運のよい人間であるかと感謝した。
 早速ディーリングルームに戻ってポジションは全部手仕舞った。1億ドル以上あった。1ドル=178円台だったと思う。
 それから2~3日後、181円台まで戻ったドルを軽く売って、小さいショート・ポジションをつくった。2000万ドルぐらいの可愛いポジションである。決め打ちはやめ、軽くフットワークを効かせたディーリングに徹するつもりである。
 その夜、帰宅してくつろいでいると、たしか10時ごろだったと思うが、東京から電話がかかってきた。
 「おい、ええよん(私のこと。名前が栄四なのでそう呼ばれていた)。米国がドル防衛策を発表した。ドルが暴騰してるぞ。ポジションは大丈夫か?」
 「暴騰って、どこまでいってるんですか?」
 「さっき聞いたら、ニューヨークで190円台が出会ってるらしい」
 「そうですか。ポジションはドル・ショートですけど、小さいので大してやられていないと思います」
 世にいうカーター・ショックである。1978年11月1日だった。
 当時はポケット・ロイターもなく、家に帰れば相場には完全に盲目である。
 すぐニューヨークに電話を入れた。
 「ドル/円はどうですか?」
 「192円~195円で100万ドルずつだ」
 通常10銭以内の売買幅(スプレッド)が何と3円もついている。しかも100万ドルのプライスしかないのだ。
 こりゃあかん---私は観念した。ほとんど相場が消えてしまったマーケットでジタバタしても仕方ない。運を天に任せ、明日の東京市場で買い戻すことにした。
 それから成瀬次長に電話した。
 「米国がドル防衛策を発表しました。ドルは195円まで暴騰しています。ポジションは20本のドル・ショートです。こんな滅茶苦茶なマーケットなので、今日はジタバタせず、明日処分するつもりです」
 「よしわかったそうしよう」
 えらい人である。「俺の言ったとおりだろ」などとは言わないのである。「何だ、また20本売っちゃったのか」とも言わないのである。
 私は、195円でドルを買い戻せば約3億円のやられかと覚悟した。成瀬さんのアドバイスがなかりせば、15億から20億円はぶっ飛ばしていただろう。私は自分がツイている男だと確信し、眠りについた。
 翌日、東京マーケットがオープンした。日本の連中はカーター・パッケージの効果に懐疑的な向きが多く、朝からドル売り殺到となった。輸出業者の輸出予約のドル売りも大量に出回り、日銀はドル買い介入で一日中超繁忙であった。東京マーケットのドル相場は終日185円ちょうど、日銀は10億ドルを超える当時としては巨額のドル買い介入を行ない、185円を守り切ったのである。
 私は運よく、185円でドルを買い戻すことができ、被害は軽微であった。昨日ジタバタせずによかったと思った。
 この体験は後々の相場に役立つのである。
 あっと気がついた瞬間に、すでに突発事件で大やられになってしまったときは、ジタバタせずに事の推移を見守るという教訓を得たのである。
 なお、この185円が一種のセリング・クライマックスで、その後ドルは急激に値を戻し、1カ月後には200円を回復している。4年後の1982年には278円と、100円も戻したのである。

 ・・・<抜粋終了>・・・

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